我々が音楽とその音楽を表現するために必要である楽器の歴史を考える時、大抵バイオリン属の擦弦楽器を思い出すこと事が多いと思います。コントラバスを始め、チェロ、ヴィオラとバイオリン。勿論、様々な歴史の時期によって、それだけではなく高音系の楽器やリュート、ヴィエラ、ギター等の撥弦楽器も含まれています。
私が在住しているオックスフォード市にあるアショモリュム博物館では世界的に有名なバイオリン製作者アントニオ・ストラディバリ氏製作のギターが保管してあります。氏は バイオリン以外にも実に多くの楽器を製作していましたが、ギターを製作していた事はあまり世間に知られていなく、完成した形状で今日も存在しているものとしては非常に数少ない貴重なギターと言えます。このギターの弦長は現在のものに比べると信じられない程長く、通常が650ミリに対して740ミリもあり、低音系のギター、即ちバスギターであったと思われます。
1970年、私はとても運がよく、博物館より特別に許可を与えられ、この楽器をケースから引き出し、サイズを計りながら製図する事が出来ました。楽器の弦長の異常な長さにも驚きましたが、それが私に一つのモダンギターを作るアイディアのヒントとなりました。それによって、この楽器と全く同じ形状のコピー作品を作りましたが、同時にこの様なギターは伝統的なレパートリーの演奏には合わない事が分かりました。その為、私の新しいギターの試作計画はどっちつかずな状態になってしまい、普通のギター(プライムギター)製作に集中しなければならなくなりました。
しかし、それも1970年代の半ばに解決しました。新堀ギターの方々が当方にいらして下さり、その時に彼らがプレゼントしたレコードを聴いて目が覚める思いをしました。それは今までに出会った事のないギターの編成であり、生き生きとした明るいサウンドであった事を今でもハッキリと覚えています。その時から私の将来のギター製作の方向を決める事が出来たのです。
私が最初に習った楽器製作はハープシコードでした。その為にバロック時代の楽器、並びに、リュート、シターン、勿論ギターも含めて多種に及ぶ楽器製作の研鑽を積みました。それから私の情熱はギター製作に移行し、各種のバスギターやアルトギター又、アンサンブルをはじめ新堀寛己先生が創られた素晴らしいギターオーケストラ用の各種ギターの製作を継続し、それによって各種ギターに対する興味も益々深まる事になりました。
今日までギターは曲数は勿論、表現の可能性にしてもピアノやバイオリン等の楽器の様な幅広いレパートリーは少なかったのですが、ギターのオリジナル作品のパイオニアでもある新堀寛己先生はとても自然な、且つ理論的な方法の開発によって、この楽器の新たな世界、新たな表現の可能性を作り出す事によって、多くの聴衆に喜びを与え、その範囲は日本国内だけでなく、世界中にも及びました。
最後に、各種ギター製作のきっかけとなった新堀寛己先生、そして私の楽器をご使用頂いている多くの皆様からお礼を申し上げると共に、ギター変遷の歴史に携わる事ができた製作家として心より嬉しく思います。 (ギター製作家)
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